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神谷 司さん[PANIC]×神谷 翼さん[SCREEN]サロン経営の未来形

いつの時代も人を育て、お客さまに真摯に向き合うことの積み重ねである美容師の仕事。その中で時代の変化にいかに対応すべきか。今回は、岡山と兵庫でそれぞれに独立したサロンを展開する神谷父子が対談。親子として、オーナー同士として、語り合う。

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神谷 司[PANIC]カミタニ・ツカサ

1961年生まれ。岡山県出身。日本美容専門学校卒業後、東京都内数店舗を経て、’87年、岡山県玉野市内にPANICをオープン。現在、6店舗を展開し、スタッフは40人。クリエーション活動やコンテストに積極的な技術志向の強いスタッフを育成。2017年10月に開かれたPANIC30周年パーティには、多数のOB・OGが集結した。

神谷 翼[SCREEN]カミタニ・ツバサ

1984年生まれ。岡山県出身。日本美容専門学校卒業後、東京都内1店舗を経て、2014年、兵庫県神戸市にSCREENをオープン。現在、2店舗を展開し、スタッフは11人。ヘアデザインとその背景としてのロジックの魅力を伝えるヘアショーに定評がある。複数のスタッフが大規模なコンテストでグランプリを獲得するなど、育成にも力を入れている。

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――PANICは今年オープン30周年を迎えました。

司 この30年、あっという間でしたね。記念パーティの場で久しぶりに会うOB・OGたちの顔を見て懐かしく思って、月日がたったことを実感しましたけれど…オープンしたとき、翼はまだ3歳ぐらいだったからなぁ…。

翼 PANICは両親とスタッフもう1人の3人で始めたサロン。僕もSCREENを3人でスタートしました。うちは今年で3年目。父は僕の10倍の期間、サロンを率いているわけですね。

――お2人は実の親子ですが、それぞれ独立した経営者として、お父さまの司さんは岡山で、ご子息の翼さんは神戸でサロンを展開しています。営業年数や規模こそ大きく違いますが、PANIC、SCREENいずれもヘアデザインや技術志向の強いサロンです。美容師としてのお2人は似ているタイプなのでしょうか? 自己分析で、いかがですか?

翼 僕は父のヘアショーを見て美容師を志しました。高校1年生のときに学校の友達と見に行って…今でも覚えている。モデルが着物ベースのドレスを着ていて、ヘアカラーが赤だったんですけど、父がカットする姿に迫力があったし、友達が「親父さん、カッコええ。カッコええ」って言うもんだから(笑)。そうだな…って思ってしまって(笑)。父はコンテスターとして国内のみならず海外の美容シーンでも活躍していました。ですから、美容師として「つくる」ことに絶対的に重きを置くスタンスが根源にあるし、僕もその強い影響を受けていると思います。

司 翼にしろ、広大(PANICディレクター・鎌田広大さん/後述)にしろ、経営やスタッフ教育に関して、見ていてちょっと考えすぎなんじゃないかなって感じる部分はありますね。そこは自分とは少し違うな、と思います。サロンを長くやる中で、いろいろと大変な時期もありましたけれど、周りが心配する中、僕は「なんとかなる」でやってきてしまったところがあって。でも、そう思い切って躊躇せず前に進んでこなかったら、今のPANICはなかったとも思うんです。もちろん、周囲に恵まれて支えてもらえたからなのですが。

翼 時代の影響もあると思いますが、確かに僕のほうがビジネス志向が強い。父のほうが職人肌で、クリエーターとしての側面が色濃いですね。

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――ビジネス志向が強いという翼さんの自己分析は少し意外です。

翼 はい。父に比べてということですけれども、でもやっぱり僕は何にしろ、「結局は全てビジネスだし、ビジネス的な成功がなければ誰も幸せになれない」と思っているところがあるんです。たとえばクリエーションでも、もちろんつくることが好きというベースはあるのですが、それ以上に「スタッフに道をつくるために」という目的が原動力になっているところがあります。父は純粋な思いでデザインや技術にまい進してきて、その背中をスタッフが「見て」付いていき、組織が大きく成長したのだと思うのですが、僕は今、背中を「見せて」スタッフを付いて来させようとしている部分があると思うんです。

――「見て学べ」というのはいつの時代も美容技術教育のベースにあるものですが、PANICの教育システムの中で、時代に合わせて変えてきた部分はあるのでしょうか?

司 システムという意味では、正直何も変えていないんです。ただ、技術の到達度に対する評価に関して、基準がやや甘く変化しているのではないかな、と客観的に感じることはあります。一方で、3人で始めたサロンが今や40人を超える規模になっているわけです。美容師になる学生の数から考えても、これからの時代は、より多様な人材に多様な活躍の仕方をしてもらえるサロンづくりをしていかなければならない。当然、技術は大切ですが、そこだけを徹底追求していくタイプのスタッフのみでサロンが成り立つわけでもない。そのせめぎ合いを感じてもどかしくなることはあるんです。SCREENを見て、少数精鋭で細かいところまで価値観を共有している様子を目の当たりにすると、うちも学ばなければいけない点があるな、と。SCREENにはサロンの黎明期ならではのものすごい勢いがありますから、僕が刺激を受けることも非常に多いんです。

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――この業界は、そうして育てたスタッフの独立に際して師弟関係が複雑なものに変化してしまうことも多いです。この問題は未来永劫変わらないものなのでしょうか?

司 僕の場合は、子どももスタッフも、やっぱり自立してもらわないといけないという考えが根底にあるので、この30年、変な形で独立するとか別れたというのが1つもないんです。もちろん、気持ちの部分ではいろいろありますよ。でも、子どもが育っていくのと同じで、独立するならば何か応援したいし、たとえば出店場所を見て相談に乗ったりもしますね。岡山のように商圏が狭いと、直接的であれ間接的であれ、関わりが断ち切られることはないわけですから、なおさらです。

――これから業界規模の縮小が避けられない中で、美容業がより発展するためには、上に立つ人が意識的にそうした思考を持つよう自分を律さなければならないのかもしれません。

翼 経営者側がもう一段、目線の高い思考を備えなければならないのと同時に、スタッフサイドでは、「独立したい」と考える人が減る時代に入ると思うんです。店を出せば自然にお客さまが集まるような時代ではないし、独立リスクが高いですから。だから、それに応じた業界構造…これまでの「人」にまつわるサロン経営の常識を根本から見直し、組織を率いる側が意識改革する必要があるのではないかと思います。要は人を長く雇用しつつ、金銭的に豊かな生活を提供できるような経営をしなければならないということです。

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――サロンの事業承継もこれからの業界のテーマです。翼さんは都内のサロンで勤務後、家業であるPANICに入らずに、ゆかりのない神戸でSCREENをオープンしました。一方、今、PANICでナンバーツーとしてリーダーシップを発揮しているのはディレクターの鎌田広大さんです。鎌田さんは翼さんの美容学校の同級生。美容学校生時代に司さんやPANICにほれ込み、埼玉出身にもかかわらず岡山のPANICに入りました。

翼 僕が戻らなかったのは、ゼロからサロンをつくる経験をすることが自分にとっても周囲にとっても大切なのではないかと考えたことと、PANICという完成された組織を継ぐのは、家族として血縁関係にある僕ではなくて、技術という血を分けて父を支えてきた幹部たちなのではないかな、という思いを強く抱いたためです。家族間では、複雑な思いもそれぞれにあったとは思うのですが…。

司 少し前に、広大に役員として会社に入ってもらい、PANICも新しいチャレンジをしようとしているところです。組織変革なども彼に任せていこうとしています。なんか、広大のほうが本当の息子みたいな気がするんだよなぁ(笑)。

翼 (笑)。いや、でもそれはある意味、本当に正しいと思う。技術の血はそれほどまでに濃いものだと思うよ。

司 さっき話したように、規模の拡大によって変わっていった部分についても、「広大の思うように変えていいんだぞ」と伝えています。そのためならば、たとえば1店舗減るくらいのことがあってもいいと言っています。そのぐらい痛みを伴うものでも、未来のために変わらなければいけない部分はあると思うんです。

翼 うん。それ、僕もすごくいい考え方だと思います。今って、時代の流れるスピードがすごく早い。5年前のことを考えても、スマートフォンのあり方とか、今とはぜんぜん違いますよね。これからは、さらに変化のスピードが上がると思うんです。そういう時代だからこそ、先を見越してというより「今」を見なきゃって。どんなことが起きるか分からないから、その時、その時で臨機応変にというのが、僕の中での未来形の経営スタイル。大まかなビジョンはあっていいと思うけれど、行動としては、「今」を少しずつブラッシュアップさせていくことが大事なのではないでしょうか。

司 サロン経営者にとって、とくに「人」の面で大変な時代が来ています。でも、こうした時代だからこそ、雇用環境を整えて、しっかり同じ方向を向いていけるスタッフを育てて、より強いサロンになっていかなければと思います。給与や時間についても、「美容師はこういう仕事だから」ではだめで、きちんとした環境をつくって、私たちの仕事の良い面を伸ばしていきたい。今いてくれるスタッフと一生関わっていきたいな、と考えているんです。そして、お客さまに、「あそこに行けば…!」と思っていただける店づくりをコツコツとやっていく。そうした「精神」を大切に。美容は本来、シンプルな仕事ですからね。

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働く環境や自己発信の仕方は時代に合わせて変えるべき。でも技術鍛錬や人間関係という決して変わらない、大切なものを見失わないで
神谷 司

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将来を明確に予測することは難しい。それより、「今」この瞬間に一番新しいこと、最善であることを選択することが、よりよい未来につながる         
神谷 翼

『美容の経営プラン』2018年1月号

photo_Koichi Sawada[karaft]


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