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コロナ禍で評価を高めた業界メーカーの決断力/コタ(株)小田博英社長~自社従業員を対象に自主的PCR検査を実施~【美容界ニュースORIGIN】

 新型コロナウイルス感染拡大の第3波が全国的に広がり始めた昨年末、美容室向け頭髪用化粧品および医薬部外品メーカーのコタ(株)(小田博英社長)は、感染拡大防止対策の一環として、自社従業員を対象とした自主的なPCR検査の実施を発表した。

 全従業員362人中、感染リスクの高い200人強の従業員を対象に、1月~3月まで月1回、定期的な検査を実施。3月8日(月)~3月16日(火)には、3回目の検査が行われ、検査対象者全員の陰性が確認された。

 検査費用は全て会社が負担。民間のクリニックが提供する検査キットを利用したことで、保健所経由の検査費よりも格段に費用を抑えることができたが、それでも200人超の検査を行うとなると百万円単位のコストがかかる。しかし、そのことによって得られた価値は、かかった費用を差し引いて余りある大きさだった。

 検査実施を積極的に推進した、コタ(株)小田博英社長に、その経緯と意図を伺った。

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コタ(株) 小田博英社長

疑心暗鬼が漂う社内の換気から

――昨年、新型コロナウイルス感染拡大が始まった時、社内の様子はいかがでしたか。

小田博英社長(以降、小田) 全く未知の病気で、私自身、何をしたらいいのかわからない状況でしたので、一般に言われる感染防止対策を徹底するしかありませんでした。今、振り返ってみますと、これは仕方のないことですが、感染の広がり具合が普通ではありませんでしたので、従業員の多くが周りに対して疑心暗鬼の精神状態でした。このままでは仕事どころではなくなると危惧しました。

――従業員の方にはどのような指示を出されましたか。

小田 当時、私がやっていたのは、季節性のインフルエンザとの比較です。まだまだインフルエンザの方が怖い病気だという意識を持たせ、必要以上に恐れ過ぎず、でも侮らないようにと言い聞かせて、まずは空気を落ち着かせよう、と。

人との接触度合いを数値化してコントロール

 しかし、ある出来事によって、コロナ禍における対処を根本から考える必要が生じた。同社のある支店の取引先美容室の顧客に、新型コロナウイルスの感染が確認された際のこと。保健所の調査では、感染した顧客を担当していたスタイリストに、濃厚接触の疑いはないと判定されたが、その美容室は大事を取って自主的に2週間の休業を決めた。

 それに伴って、同支店の支店長が、営業担当者に「2週間の自宅待機」を指示。さらに、支店全員の自宅待機が必要か、本社に問い合わせがあったという。

小田 これはいけない傾向だと感じまして、社内マニュアルの見直しに取り組みました。もともと感染者と濃厚接触者の分類しかなかったため、少しでも接触した人は、例え間接的であっても濃厚接触者に含まれてしまう。

そこでいちいち自宅待機にしていては、一定期間、会社(支店)が機能しなくなってしまいますので、接触度合いを段階的に設定し、どの程度であれば濃厚接触に当たらないか、定義づけを行いました。

――どのような基準を設けられたのでしょう。

小田 1回目の緊急事態宣言が発出された頃、“人との接触8割減”で感染拡大は抑えられる、というような政府側の表現がありましたが、その8割という数字がさっぱり腑に落ちなかったんです。例えば、5人の人がいて1人になったら8割減と言えるのか、その他に人との距離もあるし、接触時間も関係するでしょうから、単純に8割減とはいかないと思いました。

そこで、人との接触を数値化して可視化する必要性を感じました。従業員が1日の中で人と接触する人数、距離、時間を、独自の計算式にあてはめスコア化することで、数値をコントロールする意識付けをしたわけです。

コロナ感染リスク算出シートについて_page-0001

感染リスク算出シートサンプル

――コロナ禍において画期的な試みと思います。実際どのように機能しましたか。

小田 部署によって、または通勤で公共の交通機関を利用しているか否かで個人差が大きく、もともと数値の低い従業員は下げようがない、という面もありましたので、そういう人は現状維持を心掛けていただき、営業担当者など、調整が利きそうな従業員を中心に、数値を下げる工夫に努めていただきました。

感心したのは、数値で可視化されたことで、こちらから強制しなくても、どういう行動を控えれば数値を減らせるのかを考える従業員が増えました。スコアシートは休日でも付けていて、プライベートで出かける時も、人の多い時間をずらせば接触を減らせるなど、常に意識を持って行動するようになったようです。

コロナ禍でも揺るがない美容室の価値

 同社には「旬報店システム」という、美容室との二人三脚で経営計画を組み立て、将来ビジョンの達成を目指す仕組みがある。それには定期的なミーティングで売上実績を分析し、的確なアドバイスを提案するなど、互いのコミュニケーションが重要になるが、コロナ禍においてその関係性をどのように維持してきたのか。

小田 各営業担当者が、リモートミーティングを活用しながら、関係性は維持できていたと思います。オール金賞サロン会や各セミナーなどの営業イベントは中止せざるを得ず、私自身も、美容室オーナーの皆さんと直接お会いできてはいないのですが、美容室というのはそもそもクリーンな場所ですから、自信を持って営業していただきたい、というメッセージを送りました。

一時、理美容室も、営業自粛の対象になるのかどうか、という議論も起こりましたが、美容室は保健所の管轄で、元来清潔さを要求される業種です。さらに言いますと、少なくとも当社のシャンプーと一部のスタイリング剤には、ウイルスを不活性化させる成分が入っていますので、施術の都度、殺菌・消毒をしながら仕事をされているわけで、そういうところをもっと広く認識されるべきだと思いました。

――実際に旬報店の業績はどうですか。

小田 昨年の4月~5月あたりは、さすがに大幅に業績を落とした美容室は多かったのですが、不調だったのはそこまでで、以降、人が戻って来た率より、売上が戻った率の方が高くなっています。つまり客単価が上がっているのです。

それは、コロナ禍で店内が密にならないよう完全予約にシフトしたことで、お客さま一人当たりの担当時間にゆとりができ、ちょっとした追加メニューを提案できたり、お客さまもそれを受けるようになったりしたことが要因のようです。

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感染者を積極的に見つけに行く対策へ

 美容室の営業は回復傾向にありながらも、夏には感染拡大の第2波が押し寄せ、いったん引いた波は秋口に大きく成長し、第3波の襲来を人々に意識させた。ここで小田社長は、一つの決断をする。

小田 11月から12月にかけての感染状況を見て、当社から感染者が出るのは時間の問題だと思いました。ですから従業員に向けては、コロナに感染しても、それは決して恥ずかしいことでも、悪いことでもない。隠すことが最も問題である、と。ですから感染の疑いがある場合は、何も心配をしないで速やかに報告するように、と発信しました。

そして、会社としても積極的に感染者を見つけにいって、取引先の皆さんをはじめ関係者の方にまずは安心いただこうと、PCR検査を行うことにしました。

――小田社長からの発案と伺っております。

小田 当初は反対意見もありました。感染者を特定しても、治療する術がないから意味がないというね。それは自分本位の考え方で、PCR検査は陰性だったからそれで良いということではなく、もし無症状で感染していたら、大切な家族、同僚、お客さまにうつしてしまうという可能性を想定すると、意味がないということはありません。

包み隠さない姿勢で高まる信頼と安心感

 同社は昨年12月28日、従業員を対象としたPCR検査を、1~3月にかけて毎月1回実施することを、公式サイトにて公表。検査対象は「外勤業務に従事する従業員及び通勤手段により相対的に感染リスクが高いと考えられる従業員」とした。

 対象者の絞り込みに役立ったのが、前出の感染リスク算出シート。全従業員362人中、社内で設定した基準の数値に達した227人がPCR検査を受けた。
そして、1月の検査では1人の陽性者が判明した。

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同社で採用したPCR検査キット

小田 支店長が濃厚接触者でしたが、再検査を受け陰性でした。もし検査を行っていなかったら、誰か症状が出るまで気付かず支店全体に感染して機能停止となり、さらにはお取引美容室にまで広がっていた恐れもあります。それを考えると、費用をかけて実施した価値は十分ありました。

――その後は陽性者は出ていないのですね。

小田 そうですね。反対意見の中には、陰性だと安心して羽目を外して夜に遊び歩くのではないか、という声もあったのですが、そんなことは全くなく、逆に今回陰性だったから、最後まで陰性になるようがんばろう、と気を引き締めていたほどです。

営業担当者は、担当する美容室におうかがいする際に、陰性だったと胸を張って言えると喜んでいましたし、美容室様に検査の情報をしっかりお伝えしていることで、信頼をいただくとともに安心感を持ってお取り引きいただけます。

――withコロナとも言われていますが、企業としてどのような進化を想定されていますか。

小田 分からないというのが正直なところです。やはりインフルエンザとの比較になりますが、ワクチンが普及して、同じ程度の位置づけになるのか、または永久に警戒が必要で、マスクが必須になるのかどうかも読めません。コロナに限って言うならば、この後、第4波、第5波が及んだ時、即座に、かつ的確に、企業としての対応をしていくしかないと考えます。

ただ、コロナ禍で改めて思ったのは、リモート会議などの通信的なインフラは一気に進化しましたが、美容室でクラスターが発生した事例は極めて少なく、業績の回復も早かったですから、現時点では大きな方針転換を迫られるまでの影響は受けていないと思います。

「1年前の同時期は、会社がつぶれることも考えた」と小田社長。決算期には各部署から、業績予想の算出が困難との意見を受けたが、上場企業である以上、業績予想を出さなくてはいけないと突っぱねた。事情は理解しながらも、何もかもコロナのせいにして、企業活動が鈍ってしまうことを危惧したからだ。

 コロナの影響であるかどうかは、後で精査すればいい、コロナがなければ、本来どのくらいいけるのかという考えで目標を設定した。「皆がそれを目指して、何とか数字に近づく結果を出せそうです」とコロナ禍で発揮された会社の底力を噛みしめる。

PROFILE 小田博英(おだ・ひろてる)/1959年10月3日生まれ。京都府出身。1984年にコタ(株)に入社。2004年、同社代表取締役社長に就任し現在に至る。


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