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逆境を乗り越えて、替えの効かない美容師になろう/山下浩二×西本昇司×横手康浩

青山・原宿・表参道という世界屈指のヘアサロン激戦区で、延べ数十万人に及ぶお客さまを担当しながら、業界発展と美容師の向上のために、技術やデザイン、知識を惜しみなく公開し続けてきたトップヘアデザイナーたち。長いキャリアを通じて、幾多の困難、試練、逆境を乗り越え、衰えることのない高い意識で美容と向き合っている山下浩二氏(Double 代表)、西本昇司氏(BRIDGE 代表)、横手康浩氏による座談会をお届けする。テーマは“逆境を乗り越え、替えの効かない美容師になろう”。「サロンワークをずっと続けたい」「お客さまに長く寄り添える存在でありたい」――そんな思いを心に秘めた美容師にこそ読んでほしい、珠玉のスペシャルトーク。技術とデザインで切磋琢磨を重ね、業界をリードしてきた達人たちが、お客さまに選ばれ続ける美容師像を語る。

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指名され続ける美容師が、サロンワークで気をつけていること

山下浩二(以下、山下) 技術面で必ず実践しているのは、カットの切り上がりがフィニッシュであることです。乾かしただけで、切り上がりと同じ仕上がりになるカットをしています。

西本昇司(以下、西本) 山下さんは、とにかく収まりのいいカットをされますよね。だから、ブラシを使ったブローで髪を収めるスタイリングが必要なくて、お客さまもご自宅でセルフブロー、セルフスタイリングがとてもやりやすい。これは、山下さんのお客さまが減らない理由の1つだと思います。しっかりとお客さまの目線に寄り添った仕事を徹底されているんです。

山下 どんな髪質でも収まるカットに行き着くまでに、独自の方法で試行錯誤を繰り返してきて、その過程でレザーカットを始めました。22~23年前かな。長い間、僕自身が納得できていなかった収まりの悪さが、レザーで初めて解消されたんです。レザーも含めて、今やっている技術を確立できたのは、50歳を過ぎた頃ですね。

横手康浩(以下、横手) ハンドブローでここまできれいに仕上げる美容師を、僕は見たことがないです。そういえば以前、山下さんが1ヵ月半ほど、海外へ行かれていた時期がありましたよね。

山下 ありました。ちょっと訳あって、ロンドンへ行ってました。1996年頃でしたかね。

横手 あの時、山下さんのお客さまが僕のところへカットに来たんです。そのヘアスタイルを見て、バランスとなじみのよさに驚きました。シンプルなボブでしたけど、くずれていない。僕が長さを1センチ変えたら、全然なじまず、収まらなくなって、大変でした。山下さんがどのようになじませ、収めたのか、分からなかった。山下さんのカットのすごさを実感しました。

山下 ありがとうございます(笑)。

西本 なぜロンドン行ったのでしたっけ?

山下 その頃、フリーの予約が毎日40~50件、僕自身も1日40人近くのお客さまを担当していました。とてもありがたいことではあるんですけど、僕はお客さまから本当に必要とされているのか、いや、一時的に盛り上がっているだけで、すぐ下火になるのではないかなって。昔から来てくださっているお客さまを大切にしたかったので、少しサロンから離れてみて、それでも僕を指名して来てくださるお客さまがいたら、その方たちは僕を必要としてくださっているだろうと。そんな思いから、旅に出てしまいました。

西本 帰ってきた後、お客さまは?

山下 減っていました。だけど、思ったほど大きな変化はなかったです。

西本 そうだったんですね……僕は、サロンではできるだけシンプルでスタンダードな、長く愛されるヘアスタイルをつくることを意識しています。常に新しさを加味しながら、ですね。

横手 新しさをとり入れながら、シンプルで飽きの来ないスタイルをつくるって、大切ですよね。僕も心がけています。

西本 以前の僕は、アヴァンギャルドで個性的なスタイルがいいと思っていました。それを気に入ってくださるお客さまもいらっしゃいました。だけど、お客さまの人数自体は増えていかなかった。どうしたらいいのか迷っていた時期に、身近なところに横手さんと山下さんという、素晴らしいお手本がいたんです。

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志の高い仲間がいるからこそ

山下 横手さんがつくるスタイルの品のよさは、独特ですものね。

西本 そうなんです。僕が自分の母親を誰かにカットしてもらうとしたら、横手さんがいいなって。

山下 さっき、あれだけ僕のことをほめてたのに(笑)。

西本 そうでしたね(笑)。とにかく、僕は横手さんや山下さんから受けた影響は大きいですね。美容師としての自分が形成されてきた中で、ものすごく重要な存在です。

横手 西本さんが『ZUSSO』(かつて横手さんが経営していたサロン。山下さんや西本さんが在籍していた)に入ってきてくれて、同時期にアシスタントだった綾小路さん(綾小路竹千代氏。元ZUSSO、現ACQUA)たちと一緒に、サロン内の常識をどんどん変えていってくれました。僕自身も刺激を受けて、よりよい仕事ができるようになっていったと思います。

山下 人との出会いによって、美容師人生って変わりますよね。今日ここにいる3人は、『ZUSSO』でたまたま集まったようでいて、じつは偶然じゃない運命だった気がしてします。僕は元々、東京で何年か経験を積んだら、地元の鹿児島で美容師を続けるつもりでした。東京に長くいる予定ではなかった。それが、こうして今も東京にいる理由のひとつは、当時出会った人たちに受けた影響が大きいからです。今、コロナで世間もサロンも大変な状況が続いていますが、こういう仲間の存在があって、目に見えないところで支え合っているようにも感じます。

西本 そうですね。広島から東京に出てきた僕は、23歳でアシスタントとして『ZUSSO』に中途採用されました。デビュー後しばらくは、フリーのお客さまを回していただいていました。だけどお客さまが少ないから給料は少ない、お腹は空いているけど食事より洋服が欲しい、撮影のチャンスはいただけていたのに集客につながらない、今みたいにSNSがあるわけでもない――悶々としていた中で、どうすればいいのかと思って先輩方をあらためて見てみたら、1人ひとりが武器というのかな、人に負けない特徴というか、それは技術やデザインであったり、接客だったり、何か光るものを持っているのだなと気づきました。それで、横手さんに聞いたんです。「指名のお客さまを増やしたいです。どうしたらいいですか?」って。そうしたら横手さんは「誠心誠意やることだよ」と教えてくださいました。しかし、誠心誠意って何だろう? 分かんねぇ!って、悩みましたね(一同爆笑)。

横手 僕は最初に就職したサロンで、一度スタイリストとしてデビューさせていただいたのですが、技術面も精神面も未熟で自分に自信がなく、何もかもうまく行かなくて、サロンを辞めて別のサロンへ移り、アシスタントからやり直しました。「もう、後がない」という危機感で、そこで初めて美容に本気になりました。そのサロンで再デビューしてからは、技術的にはまだ全然足りていなかったのですが、「目の前のお客さまを絶対にリターンさせる」「一生、僕が担当する」って、気持ちを前面に出してお客さまと向き合い、お客さまが少しずつ増えていきました。

山下 そのころの横手さんを僕らは知らなくて、『ZUSSO』以降の、毎日毎日ありえないくらい多くのお客さまを担当している姿を見てきましたけど、何がすごいかというと、当時から今に至るまで、横手さんはお客さまの人数が減っていないことなんですよ。美容ブームが起きるずーっと前から、お客さまが多い状態が続いている。35年以上、変わらない。お客さまに飽きられない。これは本当にすごいことなんです。

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お客さまが増えない美容師の特徴

西本 お客さまがなかなか増えていかない美容師は、こだわりが強過ぎる人や、お客さまと接する際に別の人格をつくってしまう人などですかね。ちょっと無理をして、背伸びし過ぎてしまっていたり。

山下 美容師と、サロンの場所が合ってないケースもあるのかなと思います。表参道や青山では今ひとつだったけれど、郊外にお店を出したら、予約がとれない人気美容師になった人もいます。

横手 元気がない人、暗い人、自分(美容師)がつくりたいヘアスタイルをお客さまにつくってしまう人、お客さまの悩みを引き出せない人、お客さま1人ひとりのライフスタイルやファッションに合わせた提案ができない人……美容師って、お客さまにとって「今までで一番いいヘアスタイルにしてくれる美容師」「この美容師じゃないとダメ」みたいな、常に一番の存在であり続けないと、お客さまは来てくださらないんです。お客さまにとっての二番手以下だと、意味がない。お客さまから見て、一番の美容師になると覚悟を決めて仕事に臨むほうがいいと思います。

西本 お客さまが増えない状況が続くと、大手集客サイトに頼りたくなるじゃないですか。以前、技術セミナーの講師をしたときに、受講されていた方から言われた言葉が忘れられないんです。「西本さん、これからも大手集客サイトに頼らないサロンを続けてください」って。「技術やデザインで業界をリードしてきたサロンがあのサイトに掲載したら、美容業界終わります」って。だから、というわけではないけれど、頼らずに頑張っています。

山下 うちも、大手集客サイトに頼らずに、有志のサロンで予約サイトをつくって、なんとかやっています。大手のような、たくさんのサロンが参加する場所に行きたくない、という思いもあるかな。

横手 集客の方法は時代ごとに変わってきていて、一昔前は雑誌の影響力が大きかったですよね。それが大手集客サイトに代わり、今は個人発信のSNSも主流になっています。どんな方法であれ、集客は大事ですが、来ていただいたお客さまをいかに多くリターンさせるか。これができるようになれば、美容師は自分の理想的なペースで、長く仕事を続けることができる素晴らしい職業なんです。

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お客さまに選ばれ続ける美容師とは

西本 僕が横手さんに「指名を増やしたい、どうしたいいか」って聞いたころ、横手さんはまだ30歳前後だったはず。だけど、ちょっと引くくらい落ち着きのある風格で、40代以上のお客さまも大勢いらしていましたよね。忙しくて、お客さまをお待たせしてしまう時間が多かったのに、年上のお客さま方は誰ひとり文句も言わず、ずっと待っておられて。もって生まれた品のよさというのかな、そういうたたずまいのお客さまが多かった。

山下 そこも、今と変わらないです。『ZUSSO』のとき、横手さん忙し過ぎて、いつか倒れちゃうだろうな、いやむしろ早く倒れてくれないかなと思ってたんです(笑)。横手さんが休めば、セット面が空いて、自分のお客さまをできるって(笑)。

西本 いつもセット面が足りなくて、シャンプー台でお客さまに鏡を持っていただいてカットしたり、キッズ用の動物や自動車の形をしたカット椅子までフル活用してましたものね。僕は横手さんや山下さんをはじめ、さまざまな方たちの背中を見て育ってきたわけですが、お客さまが多い美容師に共通するのは、技術やデザインが上手にできる以外に、人間的な魅力があることと、お客さまに本当に似合うものを提案できること。自分のキャラを持っていること。仕事がスピーディで、話が面白いこと。また、ハングリーさを持ち合わせていること。そういった共通点がありますね。

山下 あと、我(が)を通し過ぎない人。やさしい人。進化し続けている人。才能があっても、進化しないと、次のステージに進めないんですよね。それと、僕と年齢が近い男性美容師で、今もお客さまが多い人たちは、面白い人ばかりですね。個性の強い人が残っている気がします。

横手 そうですね。お客さまに対して真面目、デザインに対して真面目、美容そのものに対して真面目。加えて、時間を惜しまずに努力できる人たち。はたから見ていると、分かりにくいかもしれないですけどね。僕が知っている限り、お客さまが多い美容師はキャリアや年齢に関係なく、ものすごい努力家ばかりです。(了)

取材・文/安武 隆(女性モード社)、写真/布施 景(女性モード社)

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山下浩二
やました・こうじ/鹿児島県出身。高津理容美容専門学校卒。『ZUSSO』などを経て1994年、東京・原宿に『Hearts』をオープン。その後、全店舗を『Double』として統合。卓越したデザイン性と確かな技術、似合わせのスペシャリストとして幅広い年代から厚い支持を集める。また、国内外でのセミナー講師やコンテストの審査員を数多く務めている。

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西本昇司
にしもと・しょうじ/広島県出身。広島理容美容専門学校卒。『ZUSSO』などを経て1995年、東京・青山に『ARTIS SALON』をオープン。2003年には原宿に『BRIDGE』をオープン。美しいフォルムのボブ、ショートヘア等に定評があり、サロンワークを中心に業界誌や一般誌のヘアメイクや、セミナー講師、コンテストの審査員を数多く務めている。

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横手康浩
よこて・やすひろ/東京都出身。東京マックス美容専門学校卒。1983年~88年に『ZUSSO』、1989年に『PHASE』を設立。『究極のフォルムとバランス』、『フォルムワークを極める』(日本語版・中国語版)、『指名され続ける美容師になる方法』(いずれも女性モード社刊)など著書も多数。2018年から『Double SONS』で週4日のサロンワークをしている。

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